安い

  メーカーによりますが、古楽器のレプリカをオーダーした場合の金額は、例えばルネサンスリュートやバロックギターなら50~60万くらい、6弦のバス・ヴィオラ・ダ・ガンバなら100万、フラウト・トラヴェルソなら20万~40万くらいでしょうか。大概はケースはオプションであり、遠方ないし海外のメーカーなら送料が掛かります。ハープシコードなどの鍵盤楽器のような大型の楽器であれば、楽器の価格も送料もそれなりに嵩むものとなるでしょうか。


 こういう話をすると「高い」とか「もっと安いのがいい」という声をまあまあ聞きます。ご本人の懐事情もあるのでしょうが、これはよく考えないといけません。「安い」ということには何かしら理由があり、どこかで誰かがしわ寄せを受けるものです。古楽器は手工品ですから、一年間に作れる台数は限られます。それにメーカーにも私たちと同様に生活があるのですが、人並みの暮らしをしようとするなら前記の価格でも安いくらい。本当はもっと高くないとやっていけないでしょう。そういう状況で価格を安くするというのはメーカーに対して「霞を食っていろ」と言っているのに等しいのではないでしょうか。


 以前から中国製やパキスタン製のリュートなどが出回るようになりました。それらは一般のメーカーよりも安く、一見すると悪くはないように見えます。けれども、それは当時の音楽や楽器をよく知らない人達がマニュアルに基づいて作っているもので、どんなに工作精度が高くても、どこかに「足りない」ところがあります。それは些細なことではなく、当時の音楽に取り組む上で必ず限界を迎えます。そういう安い楽器ばかり買い求めるという風潮は、「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉が示す通り、真っ当なメーカーの経営を圧迫し、いずれは古楽器を作る人が減っていき、ついには世界中から消えてしまうかも知れず、文化のためにもよくはないでしょう。


 正当な仕事には相応の対価を支払う、それができない人は古楽器を手にしてはいけないと私は思います。安月給で社員をこき使うようなブラック企業のような態度は絶対にいけません。お金に頓着せず、楽器の購入も含めて相当のお金(と時間)がかけられる人だけが、古楽器をやる資格があると思いますし、そうではない人は古楽器をやらないほうが当人のためにも良いと思います。世の中には古楽以外にも様々な音楽や、音楽以外の趣味が沢山あり、その中には古楽よりもお金や手間が掛からないものがあるのですから...

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